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権利証を紛失したマンションを安全に売却する3つの方法

権利証を無くした場合の売却

「権利証が見当たらない!」
「権利証を失くしたかも・・・」
マンションを売る際に、権利証を紛失している売主さんは思いの外いらっしゃいます。

「権利証がないとマンションは売れないの?」
と不安に思われるかも知れませんが、まずは安心してください。

権利証を紛失していてもマンションは売却できます。

とは言え、気楽には考えないでください。
権利証を紛失している場合の代替手段は3つありますが、なかにはマンション売買で利用するとトラブルになりやすい方法もあるからです。

そこで今回は、「権利証を紛失した場合の対処法を3つ」さらに「マンション売買ではどの方法を利用するのがベストか」を中心に解説していきます。

権利関係は、経験豊富な営業マンでも知識が曖昧だったりします。
自分自身を守る意味でもしっかりとマスターしてください。

1. 権利証とは?

「権利証」または「権利書」と呼ばれていますが、正式名称は「登記済証」です。
(一般的には権利証と呼ばれることが多いので、以下では俗称の「権利証」を使って説明します。)

まず、不動産売買において、売主がマンションの登記名義人本人であることを確認するために権利証は必須です。

ただし、2005年(平成17年)の「不動産登記法」の改正により、「権利証」はオンライン化され、紙媒体から、12個の文字列パスワードである「登記識別情報」に切り替わりました。

登記識別情報は「登記識別情報通知」という書類に記載されていますが、あくまで12個の文字列さえ覚えていれば、通知書は紛失していても問題ありません。

また、「登記完了証」も一緒に受け取りますが、これは登記が完了したことの「お知らせ」なので、不動産売買では何の意味もありません。

2005年(平成17年)より前に登記された不動産に関しては、その時に発行された権利証はそのまま有効です。

ただし、権利証を持っている売主がマンションを売却すれば、次の買主から「登記識別情報」が発行されます。

2. 権利証を紛失または登記識別情報を忘れてもマンションは売れる

当然ですが、マンションを売却すれば、売主から買主に所有権が移ります。

この所有権の移動を、法務局に登録するために必要になるのが「所有権移転登記」です。
(普通は不動産会社から司法書士を紹介して貰い全て任せるので売主は指定された書類を用意するだけ)

そして、所有権移転登記を行うためには売主の「権利証」もしくは「登記識別情報」が必要になります。

このように聞くと、
「所有権移転登記に必要な権利証を失くしていたらマンションは売れないってこと?」
と、心配されるかも知れませんが、ご安心ください。

権利証がなくてもマンションを売ることは可能です。
ただし「権利証」や「登記識別情報」は再発行が認められていないので、代りとなる手続きを行わなければなりません。

代りとなる手続きの方法は3つあります。

①事前通知制度
②資格者代理人による本人確認情報制度
③公証人による本人確認制度

それぞれ詳しく解説します。

2-1. 事前通知制度

「権利証」や「登記識別情報」を失くしてしまったときに、代わりとなる手続きの基本として「事前通知制度」があります。

事前通知制度を時系列で説明

①権利証がないまま売買契約、決済と売却を進め、所有権移転登記の申請を法務局に行う
②しかし、権利証がないため、法務局は所有者本人の確認ができない
③そこで法務局は売主に「所有権移転の申請がありましたが相違ありませんか?」といった趣旨の「事前通知書」を本人限定受取郵便で送付し本人確認を行う
④相違なければ、売主は事前通知所に署名捺印し、2週間以内に返送すれば登記完了となる

この事前通知制度は、売主からすると書類を返送するだけですから非常に楽です。
しかし、買主は決済(代金支払い)が完了しているにもかかわらず、売主が書類を返送してくれるまでは自分の所有になりません。

さらに、悪意のある売主であれば、売買代金だけ受け取って、書類を返送せず所有権をそのまま移転しない、なんてことも可能です。

もちろんそんな詐欺師みたいな売主はまずいません。
しかし、単純に書類の返送を忘れてしまうことが絶対にないとは言い切れません。

これではあまりに買主のリスクが大きいため、マンション売買で事前通知制度が使われることはまずありません。

(逆に相手方がいない登記で権利証を紛失している場合、返送し忘れても被害者いませんから、事前通知制度が多く利用されます。
例えば、ローンの返済が終わった場合の抵当権抹消登記などです。)

2-2. 資格者代理人による本人確認情報制度

上記した通り、事前通知制度は買主のリスクが大きいためマンション売買の現場ではあまり利用されません。
そのため、実際のマンション売買では事前通知制度ではなく、「有資格者代理人による本人確認情報制度」を使うことがほどんどです。

「資格者代理人による本人確認情報制度」とは、
有資格者(司法書士or弁護士)が売主と面談をして「売主は権利証を紛失しているが間違いなく所有者本人」ということを証明する「本人確認証明情報書面」という書類を作成する方法です。
有資格者が作成した書類が法務局で認可されれば所有権移転登記が完了します。

面談といっても司法書士の事務所に行ったりするわけではなく、マンションの決済時に、本人確認資料(運転免許証や保険証など)を提示して、有資格者から何個か簡単な質問をされるだけです。

所有権移転登記を任せる司法書士は買主が選任するのが通例(ほとんどは不動産会社の紹介)ですから、事前に自身の担当営業マンを通じて「①権利証を紛失していること」「②必要な書類」を確認して貰いましょう。

資格者代理人による本人確認情報制度は、決済と同時にできて手間も掛かりませんし、事前通知制度のようにトラブルのリスクもありません。

しかし、資格者代理人による本人確認情報制度の費用相場は、3万~10万程度と司法書士事務所によってかなり開きがあります。
買主の選んだ司法書士ですから、売主側でコントロールできないのが唯一のデメリットです。

2-3. 公証人による本人確認制度

「公証人による本人確認制度」は、
「資格者代理人による本人確認情報制度」の有資格者の代わりに、公証人に「売主は権利証はないけどマンションの所有者本人で間違いない」とお墨付きを貰う事です。

公証人とは

公証人という単語に馴染みがない方も多いかも知れませんが、「事実」や「権利」を公的に証明する公務員のようなものです。
実質的には、裁判官、検察官、法務省などのOBの天下り先になっているので、かなり態度が大きい人もチラホラいます・・・。

メリットは「資格者代理人による本人確認情報制度」と比べて、費用がだいぶ安いことです。
全て売主一人で行えるなら、認証手数料の3500円を支払うだけです。

もし、一人は不安ということで司法書士さんに立ち会って貰えば出張料として1万円前後が必要ですが、それでも「資格者代理人による本人確認情報制度」より安くあがります。

しかし、公証人役場は土日休みで、平日も17時までと、会社勤めしている売主は行くのも一苦労です。
また、手続き(必要書類や予約の有無)は各公証人役場で若干違いますから、司法書士を立ち会わせても手間取ることはあります。

さらに、先ほども言いましたが公証人は基本的に天下りのお爺さまです。
司法書士が「これ、間違ってるよね・・?」と、公証人に逆に指摘することも少なくありません。
新人司法書士なら公証人のミスを見逃してしまうことも考えれます。

もしも、時間的に余裕のない中で、ギリギリで公証人役場に行けたのはいいけど、書類に不備があり決済に間に合わなかった・・・
ということになれば、債務不履行で違約金となってしまうかも知れません。

ですから、公証人による本人確認制度は「①少しでも費用を安く抑えたい」「②引き渡し日までに時間的にかなり余裕がある」という方でなければ利用は避けた方が良いでしょう。

3. まとめ

ここまで読んで頂いた方はすでにお分かりだと思いますが、
権利証をなくした場合、基本的には「資格者代理人による本人確認情報制度」を利用するようにしましょう。

「事前通知制度」は買主のリスクが高過ぎて利用できませんし、「公証人による本人確認制度」は確かに費用は安いですが、手間が掛かること、何より債務不履行のリスクがあるからです。

また、これから不動産会社を選ぶ方は何社かに査定を依頼し業者や営業マンを吟味すると思いますが、査定時には、必ず「権利証が見当たらない」ことを伝えておきましょう。

権利関係はベテラン営業マンでも、完璧におさえている人は少ないため、その時の返答は業者選びの大きな判断材料になるからです。

例えば、知識だけで、現場経験の少ない営業マンだと、
「事前通知制度があるから大丈夫ですよ」
などと回答してくる場合があります。

宅建などの資格は持っており知識は豊富だけど現場経験は浅い、といった新人営業マンに多い気がします。
現場を知っている営業マンであれば、事前通知制度は買主のリスクが高過ぎて使えないことは知っているはずですからね。

「公証人による本人確認制度」に関しても、実際の現場で使われることは稀なので、経験豊富な営業マンでも知らなかったりします。

逆に、
「権利証は失くても大丈夫ですよ!代わりの手段はいくつかありますが、資格者代理人による本人確認情報制度を使うのが一番おすすめです。費用は掛かりますが、手間がないですし、何よりトラブルになることがありません!」
などとアドバイスしてくれる営業マンであれば、知識・経験ともに申し分ないと言えます。

信頼できる営業マンを見つけるためにも、一括査定サイトを利用して複数の業者に査定を依頼しつつ、権利証の話も各社の営業マンに質問してみましょう。

必ず、知識も経験もある優秀な営業マンにあなたのマンションを任せてくださいね。

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