マンションを売却する際は「売買契約書」が作成され、記名、捺印をして契約を締結します。
この「売買契約書」は専門用語が多く使用されており、初めてマンション売却をするような方には理解しにくい内容となるでしょう。
中には「よくわからないけどまあ大丈夫だろう」と契約してしまう方もいますが、これは非常に危険です。
なぜならマンション売買でトラブルが発生した際には、この契約書の内容を根拠に「誰に責任があるか」を明確にするからです。
内容を理解せず契約を結べば、思いもよらない所であなたに責任が生じ、損害賠償を支払うことになりかねません。
そこでこの記事では、売買契約書の基本的な内容と、注意点について解説していきます。
思わぬ損害を被ってしまわないように、必要な知識を身に付けておきましょう。
1. マンション売却における「売買契約書」とは
売買契約書とは、「売主と買主の間で取り決められたことを書面にしたもの」を指します。
書類自体は仲介を担当する不動産業者が作成するため、あなたが準備しなくてはいけないものではありません。
契約書は、取引でトラブルが生じた際に責任の所在を明らかにします。
そんな時、契約書の記載にミスがあったり、トラブル時に自分に不利となる内容が記載されている可能性も否定できません。
個人での取引においてマンション売買はかなり大きな額となります。
そして、契約書の記述一つで大きな損害を被る可能性もあります。
そのため、必ず契約書の内容は把握しておく必要があり、わからないことがあるなら必ず不動産業者に確認しましょう。
そして、納得のいかない条項がある場合は不動産業者と話し合い、変更が可能か買主と協議する必要があります。
2. 売買契約はどのタイミングで締結されるか
マンションの売買契約がどのタイミングで締結されるのかについて、まずは一連の流れから把握しましょう。
- 不動産業者から査定を受ける
- 不動産業者を選んだら媒介契約を結ぶ
- 売却活動開始
- 内覧の対応
- 購入の申し込みが入る
- 協議の末購入が決まる
- 売買契約を結ぶ
- 決済・引渡しで売買完了
マンション売却はこのような流れで展開していきます。
そして、売買契約書が出てくるのは終盤の「7.売買契約を結ぶ」段階となります。
「2.不動産業者と媒介契約を結ぶ」というのは、「媒介契約=業者に売却の仲介を依頼する契約」であり「売買契約」とは異なります。
媒介契約について知りたいかたはコチラもお読みください。
2-1. 売買契約を結ぶ当日の流れ
⑦「売買契約を結ぶ」の当日の流れをかんたんに把握しておきましょう。
- 売主と買主の顔合わせ
- 重要事項説明
- 契約内容と付帯設備の説明
- 売買契約書に記名および捺印
- 手付金を受け取る
- 決済引渡しまでの流れの最終確認
これらの行程をもう少しだけ具体的に解説していきます。
2-1-1. 売主と買主の顔合わせ
売主と買主が顔を合わせ挨拶をします。
実際には内覧で時に顔を合わせているケースも多いので、改めて挨拶をすることになるでしょう。
場所は不動産会社で行うことが多いです。
2-1-2. 重要事項説明
買主に対して重要事項説明が行われます。
実際は、売主の到着する前に買主が先に現場に来て、あらかじめ重要事項説明を受けているケースの方が多くなります。
そのため、売主(あなた)が到着し次第、次のステップへと進む場合もあるので心づもりをしておきましょう。
2-1-3. 契約内容と付帯設備の説明
重要事項説明のあとに、売買契約書で取り決められた内容や、付帯設備表などで引き渡す物件の詳細について説明をし、売主と買主で共通認識を持ちます。
2-1-4. 売買契約書に記名および捺印
契約内容、付帯設備についてお互いに合意に至ったら、契約書に記名と捺印をし契約の成立となります。
2-1-5. 手付金を受け取る
契約書への記名。捺印が終わり次第,、手付金を受け取ります。
手付金の金額に関しては事前の協議で決めますので、当日はちゃんと既定のお金があるか確認しましょう。
たまに、「目の前でお金の確認をするのは相手を信頼してないようで失礼では……?」という方がいますが、金銭を授受する現場ではその場で確認は常識です。
手付金を受け取ったら「それでは確認させていただきます。……確認できました。確かに〇〇万円受け取りました」と、早急に買主の目の前で確認をしましょう。
その方が、お互いに安心ですしトラブルを防ぐことにも繋がります。
もし現金ではなく小切手で受け取る場合は、記載金額に間違いがないかを確認しましょう。
2-1-6. 決済引渡しまでの流れの最終確認
最後に決済・引渡しまでの流れを双方で確認します。
基本的には買主の住宅ローンの融資が承認され、契約時に決められた期日に決済・引渡しを行う旨の確認となります。
もしわからないことなどがあれば、必ずこの日のうちに確認しておきましょう。
当日は慣れない事から焦ったり、緊張してしまう人も少なくありません。
そこで、事前に聞きたいことをリストにしておくようにしましょう。
3. マンション売却時の契約書に記載される事項
売買契約書の書式には業界団体のひな形から業者のオリジナルなど、様々な形式がありますが、基本的な記載事項は変わりません。
この章では、どのような項目に何が記載されているのかを解説していきます。
3-1. 契約の当事者及び仲介人、宅地建物取引士の特定
売主(あなた)と買主の住所、氏名を記入し、捺印する箇所があります。
また、取引の仲介をする業者(宅地建物取引士)の記入・捺印をする箇所もあります。
契約書に記入・捺印をすることで、この取引の当事者を明確にします。
3-2. マンションの売買代金について
マンション売買で支払われる代金の総額から、手付金、中間金の金額、そして残金(決済・引渡し時に支払われる金額)と、それらの支払い期限が記載されます。
また、住宅ローンを利用する場合は、融資申込機関や金額、融資承認取得期日(融資の承認が下りる予定日)を記載することになります。
3-3. マンションの物件情報について
マンションの所在地、名前、土地の持ち分、マンションの形状(造りや階数、建築面積、延べ床面積)、部屋の階層と部屋番号、専有面積や専用使用部分(バルコニーなど)などの物件情報が記載されます。
3-4. 付帯設備の引継ぎについて
現在設置している家具や家電などを、「置いていくのか、持って行くのか」を明確にするための作業です。
エアコンや照明などは入居後すぐに必要な場合も多く、買主が新たに購入する必要があるのかどうかは重要なポイントとなります。
この時、共通認識ができていないと、買主はエアコンを置いていくと思っていたのに、売主がエアコンを持って行ってしまったとという状況になり得ます。
そうなると、トラブルへと発展してしまう可能性もあります。
そこで付帯設備表という書類で、持って行く物と置いていく物を細かく明確に記載します。
そして、どちらかが勘違いをしていても、記載内容を基準にトラブルを早急に解決できるようになります。
また、置いていくかどうかだけでなく、給湯器などの設備に不具合がある場合も記載しておきます。
3-5. 負担の消除
一般的なマンション売買における「負担の消除」をかんたんに説明すると、売主がちゃんと規定の日までに「抵当権を抹消」したうえで買主に引き渡すことを約束するものです。
もし、決済日に売主が抵当権を抹消できていない場合、所有権移転登記が正常に行えず取引が白紙に戻ってしまいます。
そのため、携わった人たち(買主、不動産業者、金融機関、司法書士)の労力を無駄にしないため「約束の期日までに抵当権を抹消する」という、売主側の義務が明記されます。
3-6. マンションの所有権移転について
所有権移転についてのトラブルを防ぐために、あらかじめ「どのタイミングで所有権を売主から買主に移転するか」を明確にしておくための事項です。
明記しておかないと「売買契約を交わした時点」「融資が承認された時点」「手付金を支払った時点」「所有権移転登記を行った時点」など、どのタイミングで所有権が移転されたか解釈がかわってしまいます。
そうなると、万が一トラブルが発生した時に、お互いに「所有権は自分にある」という認識となり、トラブルが泥沼化する危険があります。
そのため、所有権の移転するタイミングを明文化しておくのです。
3-7. 公租公課等の清算について
公租公課の清算をかんたんに説明すると、固定資産税や都市計画税を、売主と買主でどのように負担をするのかを取り決めるものです。
一般的には売主または買主のどちらかが先に負担しておき、決済・引渡し日を基準にして、日割りで清算することになるでしょう。
3-8. 手付解除について
手付解除とは、「買主が契約解除する場合は支払った手付金を手放す」ことで契約解除ができ、「売主が契約解除する場合は受け取った手付金の2倍の金額を買主に支払う」ことで契約が解除できるというものです。
いつまでもこの手付解除が可能だと、売主と買主はお互いに決済・引渡し日まで契約解除の不安を感じながら過ごすことになります。
そのため、手付解除が可能な期日を明確にし、それ以降は契約解除できないと定めることで取引を安定させます。
3-9. 引渡し前の物件の滅失・毀損について
これは、マンションの引渡し前に自然災害(地震や津波、洪水など)によって、マンションが滅失(無くなる)または毀損(壊れる)した場合の取り決めです。
もし、売主の手で修復ができる場合は修復をしたうえで引渡し、修復ができない場合は買主は契約を解除できるようになります。
これは買主保護のための条項となります。
3-10. 契約違反による解除と違約金について
契約をしたにも関わらず、売主(あなた)もしくは買主がその契約を守らなかった場合に契約を解除し違反した側に違約金を請求できると取り決めです。
違約金はおよそ売買代金の20%以内の金額に設定されます。
3-11. 反社会的勢力の排除について
「売主または買主が反社会勢力ではない」、または「反社会勢力の事務所などの活動拠点にする目的ではない」とお互いに表明する事項です。
もし、どちらかが反社会勢力にくみするような場合は、契約を解除することが可能です。
3-12. ローン特約について
買主が住宅ローンを利用してマンションを購入する場合は、基本的にローン特約の条項が組み込まれています。
ローン特約とは、万が一ローンの審査で落ちてしまった場合に、買主は無条件に契約の解除ができるという特約です。
3-13. 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)について
契約不適合責任とは、契約で説明されていなかった不具合が引渡し後に見つかった場合、売主がその責任をとらなくてはいけないという取り決めです。
責任の取り方は、買主が代わりの物を購入したり、その補修の費用を支払う、代金の減額を行う場合もあります。また、内容が重度であれば損害賠償の請求や契約の解除をすることも可能です。
ただし、実際の契約では特約をつけ、責任を負う範囲や期間を限定することが多くなります。
4. 売買契約に準備しておくもの
売買契約当日までに準備しておくべき物や資料をまとめます。
当日に用意できていないと契約そのものが白紙に戻る危険性があります。
そのため、仲介を依頼した不動産業者に事前確認をし、不備なく当日を迎えられるようにしましょう。
- 登記済証または登記識別情報
- 管理規約や管理組合総会議事録、パンフレットなどの資料
- 手付金の領収書
- 固定資産税・都市計画税納税通知書
- 付帯設備表
- 印紙代
- 印鑑(実印)
- 印鑑証明(三か月以内発行)
- 不動産会社への仲介手数料
- 本人確認書類
※印紙代について
印紙は売買契約書に貼り付けることになりますが、こちらは売買金額によって変動します。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
100万円を超え 500万円以下のもの | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え1千万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1千万円を超え5千万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5千万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
軽減税率に関しては、平成26年4月1日から令和4年3月31日までの間に作成された契約書が対象となります。
※印紙代に関して詳しく知りたい場合は国税庁ホームページ「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」を確認してください。
5. 売買契約書に関する注意事項
売買契約書に関する注意事項最後に売買契約を結ぶうえで注意しておくべきポイントを解説していきます。
5-1. 内容がわからない場合はすぐに押印、署名をしない
どのような契約でも同じですが、内容を良く理解せず契約を結ぶのは極めて危険です。
特にマンション売却では大きなお金が動きます。
その分、何かトラブルに発展した場合に、大きな損をしてしまう可能性もあります。売買契約は一度締結してしまえば、解除は難しくなります。
何か問題が発生し契約を解除したいと思っても、違約金などが発生してしまうでしょう。
そのため、契約書に記名・捺印する前に、
- 物件の情報に間違いはないか
- 売却代金、手付金、などに間違いはないか
- 支払日、引き渡し時期などに間違いはないか
- 公租公課等の清算方法に間違いがないか
- 手付解除はいつまで可能か
- 違約金が適切な金額か
- 契約不適合責任についての記載が取り決めた内容と一致しているか
- 付帯設備に漏れなく記載されているか
これらを一項目ずつ問題ないことを確認しましょう。
適切かわからないものがあれば、契約の席で隣にいる担当者に確認をしましょう。
「よくわからないけど任せておいても大丈夫だろう」と思わず、疑問に思ったところや理解できていない所があれば、すぐに不動産業者に聞きましょう。
5-2. 契約不適合責任に要注意
上記しましたが、売却後に契約時に告知されていない不具合が見つかった場合、売主が責任を負わなくてはいけません。
これは、例えば売主が壁を補修していたことを忘れて説明し忘れた、というような場合に「壁が破損して補修した旨を聞いていなかった」と契約不適合責任を問われる可能性があります。
また、売主(あなた)自身が認知していなかった不具合に関しても、責任が問われる可能性があります。
そのため、できる限り過去の修繕は思い出し、修繕の領収書や報告書を保管している場合は確認しておきましょう。
それだけではなく、家の中をすみずみチェックしておくことも大切です。
買主が売主に責任を求める場合は、以下の4つの方法で請求されることになります。
- 追完請求(補修費用の負担または代替物を請求すること)
- 代金減額請求(売買代金の減額を請求)
- 損害賠償請求(損害が発生した場合に賠償金を請求)
- 契約解除(契約を解除して代金の返還を請求)
いずれにせよ、売却に不利となりそうな事でも、まずは不動産業者に伝えるようにしましょう。
そして、どのように伝えるべきか、伝える必要のないことなのかなどは、プロである不動産業者に判断してもらいましょう。
5-3. 売買取引完了後は資料を残しておく
マンション売却が完了したあとも、売買契約書などの資料は必ず残しておきましょう。
後々トラブルとなった場合に証拠として必要となる可能性があります。
それだけではなく、確定申告で必要となりますし、売却後7年は追徴課税の可能性もあります。売却してすぐに処分してしまうと、いざ必要となった時に困るのはあなたです。
日常生活で必要となるケースはほぼないので、物置の奥でもいいのでわかるように保存しておくようにしましょう。
6. まとめ
ここまで、マンション売却における売買契約の基本から、注意点について解説してきました。
これらの事は全て自分でやらなくてはいけないわけではなく、不動産業者が主導となり進めていくケースが多くなります。
ただし、どこまで細かいところまで負担してくれるか、気をまわしてくれるかは担当となる不動産業者によって変わってきます。
少しでもあなたのマンション売却の不安や負担を減らすには、信頼できる優秀な担当者は自分で見るけるしかありません。
そのためには、査定額だけでは業者を選ばずに、担当者の人となりを見る必要があります。
複数社から査定を受け、色々な担当者と話し、対応を比較をすることで、担当者の良し悪しの差が見えてきます。
決して会社のネームバリューやネットの口コミではなく、あなたの担当となる人を比較検討で見極めるようにしましょう。