数年前にある雑誌が「爆弾データ」として不動産業界にはびこっていた悪習である囲い込みについて報道しました。
大きな話題となり社会問題になったため、さすがに国も黙っていられなかったようです。
国土交通大臣指定の不動産流通機構が、2016年から本格的に囲い込み対策に乗り出しました。
しかし、2019年の現在も、あの手この手で囲い込みを行う悪徳業者は存在します。
この記事では、囲い込みを行う業者の手口や、売主に与えるデメリットだけでなく、囲い込みを見破るテクニックまて解説します。
囲い込みをされると、数百万円、数千万円の損をする可能性もあります。
悪徳業者に騙されないよう知識武装してください。
1. 囲い込みとは?
囲い込みとは、売主から不動産の売却を任された不動産会社が、物件の売り出し情報を自社だけで抱え込んで、他社に対してクローズしてしまう違法行為です。
と言っても、イメージしにくいと思うので「囲い込み」について詳しく解説します。
1-1. レインズとは?
囲い込みを詳しく説明するためには「レインズ」につてい詳しく説明する必要があります。
売主から物件の売却依頼を受けた不動産会社は、自社のお客さんにだけ販売することを宅建業法で禁じられています。
物件の売り出し情報を不動産業界全体に広く共有し、他の不動産会社と協力して販売した方が、買手は多くの物件情報を比較検討出来ますし、売主は早期売却が可能となるからです。
このような不動産流通の円滑化を実現しているのが、それぞれの不動産会社が持っている物件情報を共通のデータベースに集約し、お互い共有できるシステム「レインズ」です。
正式名称「Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)」の頭文字を取ってREINSといい、国土交通大臣が指定した公益法人「指定流通機構」が運営しています。
基本的に、レインズに参加していない不動産会社はありません。
売主から物件の売却依頼を受けた不動産会社が、物件の売り出し情報をレインズに登録すれば自動的に全国の不動産会社に共有されるとい仕組みです。
レインズの仕組みさえあれば、町の小さな不動産会社でも不動産市場にある全ての物件を紹介することが出来てしまいます。
※レインズについてはこちらでも詳しく解説しています。
レインズを学んでマンション売却の成功率を10倍にする - マンション売却カレッジ
1-2. 媒介契約の種類とレインズへの登録義務
「不動産を売りたいので欲しい人を見つけてください!」と依頼するときに不動産会社と結ぶ契約を媒介契約といいます。
不動産の売却依頼を受け、売主と媒介契約を結んだ不動産会社は物件情報を速やかにレインズに登録しなければならないと宅建業法で決まっています。
参考:宅建業法34条の2第5項(総務省e-Gov)
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=327AC1000000176#416
参考:施行規則15条の8(総務省e-Gov)
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=332M50004000012#624
不動産の購入は高額ですし、一生に何度もあることではありません。
売手は早く売れるように、買手は選択肢が少しでも多くなるように、国土交通省が主導してレインズを作ったわけですから宅建業法で義務化されるのも当然でしょう。
とはいえ、不動産会社のレインズへの登録義務は、売主と結んだ媒介契約の種類によって異なります。
媒介契約は3種類ありますが、レインズへの登録義務があるのは「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」の2つです。
専属専任媒介契約 | 専任媒介契約 | 一般媒介契約 | |
---|---|---|---|
複数の不動産会社との媒介契約 | × | × | 〇 |
指定流通機構(レインズ)への登録義務 | 媒介契約締結の日から5日以内 | 媒介契約締結の日から7日以内 | 法令上の義務はない(任意での登録は可能) |
一般媒介契約を締結した際は、不動産会社にレインズへの登録義務はありません。
一般媒介契約はそもそも複数の不動産会社と媒介契約を結ぶことができ、レインズに登録しなくても多くの購入者に情報を届けることが可能だからです。
ただし、不動産売買によほど慣れているいる方でないと一般媒介で売却活動を進めることは難しいでしょう。理由は後で説明します。
1-3. 両手仲介と片手仲介
不動産を売却したい売主と、不動産を購入したい買主の間を取り持つ(仲介)ことで、仲介手数料「売買価格×3%+6万円+消費税」を不動産会社は受け取ることが出来ます。
しかも、仲介手数料は売主と買主の両方から受け取ることが可能です。
このように、売主・買主の両方から仲介手数料を受け取れることを両手仲介と呼びます。
両手仲介の具体例
売主(A)からマンションの売却依頼を受けた不動産会社(X)が、自社で見つけた買主(B)に紹介し、無事に成約したとします。
仲介業者は1社なので、不動産会社(X)は売主(A)と買主(B)の両方から仲介手数料を受け取ることが出来ます。
しかし、先ほど説明したように、不動産の売却依頼を受けた不動産会社は、物件の売り出し情報をレインズに登録しなければなりません。
レインズに登録することで、売主からしか仲介手数料を受け取れないケースもあります。
このように、売主からのみ(もしくは買主からのみ)しか仲介手数料を受け取れないことを片手仲介と呼びます。
片手仲介の具体例
売主(A)から売却依頼を受けた不動産会社(X)がマンションの売り出し情報をレインズに登録。
レインズでそのマンションの売り出し情報を見た不動産会社(Y)が条件にピッタリ合う買主(C)に紹介し成約。
買主(C)が仲介手数料を支払う先は、買手側の不動産会社(Y)ですから、売主側の不動産会社(X)は売主(A)からのみ仲介手数料を貰い受けます。
ちなみに、不動産業界では不動産会社(X)のように、売主から売却依頼を受けた不動産会社を元付け業者、(Y)のように買主を連れてくれる不動産会社を客付け業者と呼びます。
1-4. 両手仲介のために元付け業者が売り出し情報を隠すことが囲い込み
当然ですが、元付け業者としては片手仲介よりも両手仲介の方が美味しい取引ということになります。
一つの契約で、仲介手数料が2倍になるからです。
もちろん、元付け業者が物件の売り出し情報をきちんとレインズに登録し、不動産業界に広く共有したうえで、営業努力の結果として自社で買手も見つけ両手仲介となるぶんには何の問題もありません。
しかし、強引にでも両手仲介にしたい元付け業者はこのように考えます。
「他の客付け業者に買手を連れて来られたら片手仲介になってしまう・・・。自社で買手を見つけて両手仲介にするため、物件の売り出し情報はレインズへ登録せず、独り占めしてしまおう。」
このように元付け業者が両手仲介で2倍の儲けを出すことために、物件の売り出し情報を自社だけで隠しておくことを「囲い込み」と呼びます。
「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」にも関わらず、レインズに登録しなければ宅建業法違反ですし、レインズ利用規定第18条にも囲い込みを禁止するとはっきり明示されています。
元付業者は登録物件に関し、客付業者から物件詳細照会、現地案内申込みの連絡を受けた場合には、正当な事由がある場合を除いて拒否してはならない。
引用元:レインズ利用規程
1-5. 囲い込み相談窓口一覧
これから囲い込みを見破る方法や、囲い込みをされていた場合の対処法もご紹介しますが、この記事ではカバーしきれないようなトラブルもあるかも知れません。
そのような場合、悩まずに以下の相談窓口に電話しましょう。
・公益財団法人 東日本不動産流通機構 消費者相談室
(対象エリア:北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県の方)
03-5296-4113
http://www.reins.or.jp/contact/
・公益社団法人 中部圏不動産流通機構
(対象エリア:富山県、石川県、福井県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県の方)
052-521-8589
http://www.chubu-reins.or.jp/contact
・公益社団法人近畿圏不動産流通機構
(対象エリア:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県の方)
06-6943-5913
http://www.kinkireins.or.jp/contact/
・公益社団法人 西日本不動産流通機構
(対象エリア:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、長崎県、佐賀県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の方)
082-568-5850
http://www.nishinihon-reins.or.jp/inq.html
2. 囲い込みが売主にもたらすデメリット
悪徳不動産会社によって囲い込みが行われると、売主に多くのデメリットが生じます。
2-1. 囲い込みで売却期間が長期化する
元付け業者が、レインズを通し不動産業界全体に物件売り出し情報を広く共有すれば、自社だけでなく、他の多くの客付け業者の集客力や営業力を使えるので買手を早く見つけることが出来ます。
逆に、囲い込みが行われると売却期間が長期化します。
本来1ヶ月で売れるような物件が、囲い込みが行われると半年以上売れないなんてことも珍しくありません。
2-2. 囲い込みで売却価格が下落する
囲い込みが行われると売却価格は下落しやすくなります。
売却価格をかなり下げさせても損をするのは売主だけで、元付け業者は両手仲介さえ達成できれば、片手仲介よりは確実に儲かるからです。
囲い込みによる売却価格下落の具体例
業者(X)に囲い込みを行われ、集客力が著しく低くなっているため、問い合わせや内覧が少なく不安な売主(A)さん。
相場5000万円のマンションを5000万円で売りだしていたとしても、「5000万円では高過ぎるのかな・・・」と、売主は焦り始めていました。
そんな時に、「4500万円なら購入したい!」という買手を業者(X)が見つけます。
業者(X)の営業マンは、焦っている売主の心理に付け込み、『5000万円ではほとんど内覧もなかったんですし、4500万円でもこのお客さんを逃したら後がないかもしれませんよ?』と、半ば強引に値下げを迫りました。
結局、売主(A)さん4500万円で売却を決め、業者(X)は両手仲介を達成。
上記のケース、もしもレインズを通し、不動産市場に広く売り出し情報を共有していれば、相場通り5000万円で購入してくれる買主が見つかった可能性は十分にあるのです。
ここで、読者さんの中には「4500万円に値下げすれば不動産会社が貰い受ける仲介手数料も減ってしまうのでは?」と思われるかも知れません。計算してみましょう。
4500万円に値下げしても両手仲介なら、業者(X)は約300万円の仲介手数料を貰い受けることができ、売主のために他社と協力して相場通り5000万円で売却しても、片手仲介なら約170万円しか業者(X)は貰えません。
売却価格をかなり値下げしても、損をするのは売主だけで、元付け業者は両手仲介さえ達成すれば儲かる仕組みになっているのです。
2-3. 囲い込みで家計が破たんする
囲い込みが行われることで家計が破綻するリスクもあります。
例えば、現在のマンションを売却して、一戸建てに買い替えを行うような家庭です。
囲い込みのせいでマンションの売却が長期化、もしくは思い通りの金額で売れないと買い替え計画自体が崩壊してしまう可能性も少なくありません。
さらに、新居を購入できたとしても、旧居とのダブルローンになり結果的に家計が破綻するリスクすらあります。
3. 囲い込みの手口
囲い込みの手口を説明するためには、「ステータス管理」について説明する必要があります。
3-1. ステータス管理とは?
囲い込み対策として、国土交通省主導のもと2016年よりレインズに新機能「ステータス管理(取引状況管理)」が導入されました。
ステータス管理とは、売却依頼を受けた物件の取引状況について、「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」のどれかをレインズ上で設定することを、元付け業者に義務付けたものです。
また、レインズの中身は不動産会社間でしか見れませんでした。
しかし、ステータス管理導入後、不動産会社だけでなく、売主も自身の物件に限り登録内容(物件情報や図面、取引状況、など)を、レインズの売主専用画面でいつでも確認出来るようになりました。
3つの取引状況とは?
- 公開中
客付け業者からの問い合わせを受け付けられる状態の時に設定。
具体的には客付け業者からの物件に関する質問への回答したり、内覧方法を案内したりできる状態です。
基本的に、客付け業者への物件紹介を拒否することは出来ません。 - 書面による購入申込みあり
買手から書面による購入申し込みが入った時に設定。
客付け業者への物件紹介を拒否することも可能。
ただし、売主から希望があれば1番手の申込みがあっても、物件紹介を継続し2番手以降の申込みも受け付けなければいけない。 - 売主都合で一時紹介停止
売主の事情で一時的に物件紹介出来ない時に設定。
客付け業者への物件紹介を拒否することも可能。
具体例としては、「売主が新居への引っ越し準備中は部屋がグチャグチャだから内覧できない」「相続した物件で、相続登記申請中のためまだ紹介できない」などがある。
3-2. ステータス管理によって通用しなくなった囲い込みの手口
ステータス管理導入後、以下のような単純な囲い込みの手口は通用しなくなりました。
- レインズに公開しない
売主がレインズの売主専用画面を確認して、物件情報が掲載されていなければ囲い込みが発覚するため。 - レインズにいったん登録してすぐに削除する
売り出し直後だけでなく、数日後、1週間後などに売主がレインズの売主専用画面を確認して、物件情報が消されていれば囲い込みが発覚するため。
3-3. ステータス管理後に巧妙化した囲い込みの手口
すでに説明した通り「レインズ未公開」や「レインズ登録後削除」という囲い込み手法は売主が専用画面をチェックされた瞬間にバレてしまいます。
他の囲い込み手法として「売り止め」という手法もあります。
売り止めの具体例
まず、元付け業者は、売主に怪しまれないように、とりあえず取引状況は「公開中」に設定。
いざ客付け業者から「御社がレインズの載せている売り出し中の〇〇マンションの購入を検討しているお客さんがいるんだけど、内覧させてください」と問い合わせがあったら、申込みなど一切ないのに『売り止めです(他の購入希望者と商談中or契約予定という意味)』と、嘘をついて物件紹介を拒否。
もちろん指定流通機構もこのような囲い込みを行う悪徳不動産会社が出てくることは想定済みです。
そこで、「公開中」になっている物件について問い合わせたにも関わらず、元付け業者から物件紹介を断られた場合、客付け業者はレインズの運営元の指定流通機構に違反を申し立ても出来るようにしました。
そのような状況の中で、あからさまな囲い込みで客付を追い払うことが難しくなってきました。
ところが、現在でも、ありとあらゆる手を使って囲い込みを継続している悪徳業者は後を絶ちません。
以下に、巧妙化した囲い込みの手口をご紹介します。
3-3-1. レインズのタイムラグを悪用した囲い込み
最近よく使われ囲い込みの手口は、レインズの取引状況が反映されるまでのタイムラグの利用です。
取引状況の変更は、変更が必要になってから2営業日以内に行わなければならないと決められています。
さらに、レインズのシステム上、変更がすぐさま反映されるわけではありません。
囲い込みを行う不動産会社はこのタイムラグを悪用するのです。
レインズのタイムラグを使った囲い込みの具体例
とりあえず売主にバレないように、元付け業者は取引状況を公開中に設定。
客付け業者から「レインズを見てお電話したんですが、○○マンションに興味を持ってるお客様がいらっしゃるんですが内覧可能ですか?」と問い合わせがあったとします。
元付け業者は『すいません、申込みが入ってます(売り止め)』と答えます。もちろん、実際には申込みなどありません。
客付け業者も囲い込みを疑いますから「あれ?公開中になってるんですが?」と食い下がってくるかもしれません。
しかし、元付け業者は『購入申込みありに変更したはずですけど・・・まだ、反映されていないんでしょうかね。』とレインズのタイムラグを言い訳に、あたかも申込みがあるように偽装。
このようにレインズの取引状況変更までのタイムラグを悪用すれば、元付け業者もそれ以上追及できませんし、公開中にしておけるので売主にバレることもないので囲い込みが出来てしまいます。
3-3-2. 売り止めの進化系
タイムラグを悪用した囲い込みに近い手口です。
取引状況は公開中のまま物件紹介を拒否された客付け業者が「まぁ、怪しいけど、それなら仕方ないか・・・。」と諦めるような言い訳を用意して、囲い込みを行う悪徳不動産会社も増えてきました。
意地でも囲い込みを行いたい悪徳業者がよく使う言い訳をご紹介しておきます。
『売主が家族旅行に行ってしまうようで、当分は内覧できません。』
『売主さんのお子さんが急病でしばらく内覧できません。』
『さきほど内覧した客付け業者さんが鍵をなくしてしまって案内できません。』
このような言い訳は明らかに怪しいですよね?
とはいえ、客付け業者に「公開中になってますけど?」とツッコまれても、元付け業者は『本当に急なことだったんで、公開中にまだ反映されてないだけですよ』と言い訳できます。
これなら客付け業者も、それ以上しつこく食い下がることも出来ません。
3-3-3. あえて一般媒介契約を結ぶ
「媒介契約の種類とレインズへの登録義務」でお伝えした通り、一般媒介契約であれば売主は複数の不動産会社と媒介契約を結ぶことが出来ます。
そのため不動産会社としては、できるだけ一般媒介契約は避けたいと考えています。
いくら一生懸命営業活動をしても、他の不動産会社で売買が成立すれば1円にもならないからです。
しかし、最近、囲い込みのために敢えて一般媒介契約を結ばせようとする不動産会社が登場し始めました。
一般媒介契約ならレインズへの登録義務がないからです。
もちろん、売主が複数の不動産会社と一般媒介契約を結んでしまっては意味がありません。
一般媒介契約なのに「他の不動産会社と媒介契約を結ばない」などの念書を売主に書かせているようです。
プロのワンポイントアドバイス
「囲い込み被害に合わないために一般媒介契約を結ぶのは間違い」
一般媒介契約は、複数の不動産会社と媒介契約を結ぶことが可能なので、1社だけで情報を囲い込むことがそもそも出来ません。
そのため「囲い込みをされたくなければ、不動産会社と一般媒介契約を結べ!」といった主張のネット記事がよく見られますが大間違いです。
おそらく不動産業界を知らない素人さんが書いたのでしょう。
確かに先ほど解説したような念書などを書かされない限り、囲い込みはされていないかも知れません。
しかし、いくら多くの不動産会社と一般媒介契約を結ぶといっても3社程度が限界なはず。
内覧の段取りや調整を売主一人で3社とやり取りすることになるわけですから。
一般媒介契約にはレインズへの登録義務が不動産会社に発生しませんから、いくら囲い込みは起きないといえ3社の営業力しか使えません。
一方で、レインズに登録してくれる不動産会社と専任媒介契約なり専属専任媒介契約を結べば、極論ですが全国12万社の不動産会社の営業力を使えることになるのです。
さらに、一般媒介契約を結んだ元付け業者は基本的にやる気を出してくれません。
他社で売買が成立すれば自社には1円の利益にもならないからです。
この2点を知っていれば「囲い込み対策のために一般媒介契約を結びましょう!」などという寝言を言えるわけがないのです。
3-3-4. 図面をレインズ掲載しない&渡さない
元付け業者が、売却依頼を受けた物件の詳細をレインズに登録する際、図面や物件写真を登録することが出来ますが、必須ではありません。
ただし、客付け業者はレインズに図面が登録されていない物件を購入希望者に積極的に紹介できなくなります。
文字情報だけでは購入希望者もイメージ出来ず、内覧まで結びつきにくいからです。
このような客付け業者の心理を利用し、囲い込みのため、あえて図面を登録しない悪徳業者も増えています。
もちろん、諦めの悪い客付け業者は、元付け業者に「図面をFAXで送って貰えますか?」と問い合わせたりもしますが、囲い込みをしたい元付け業者は『まだ図面は作成途中なんですよ』などと言って逃げ切るのが常套手段です。
3-3-5. 売主が身に覚えのない取引状況に勝手に変更
売主は身に覚えがないのに、元付け業者が勝手に「書面による購入申込みあり」や「売主都合で一時紹介停止中」といった取引状況に変更する囲い込み手法もあります。
もちろん、申込みはありませんし、売主から紹介を停止するように要請されたわけでもありません。
このような取引状況にしておけば、客付け業者から問い合わせが来なくなり、元付け業者は囲い込みを行えるからです。
なぜ客付け業者は問い合わせをしないのか?
目の前に購入希望者がいるのに、「いやー、今は内覧できないんですが、こんなマンションありますよー」と、売主都合で一時紹介停止中の物件を紹介する営業マンはいません。
買手から『じゃあ、見れるようになったら連絡ください。』と言われて逃げられてしまうのがオチだからです。
また、すでに述べたとおり、書面による購入申込みありの物件でも、売主の希望があれば二番手以降の申込みも受け付けています。
しかし、実際に案内する客付け業者はいません。
客付け業者からすれば、案内を頑張って営業をしたところで、結局一番手で成約すれば1円にもならないからです。
しかし、この手口の弱点が、売主が専用画面を確認して心当たりのない取引状況に設定されていたらすぐさま囲い込みが判明してしまうこと。
特に、最近は囲い込みについて詳しく知っている売主も少なくありません。
そこで、登場した最悪な囲い込みが申込書の偽造です。
申込書偽造で囲い込む具体例
囲い込みを行いたい元付け業者は、実際に申込みが入っていないにも関わらず、売主に内緒で取引状況を「書面による購入申込みあり」に変更。
売主が取引状況を変更されていることに気付かなければそのまま囲い込みを継続。
仮に、売主が専用画面を見て「申込みがあったなんて聞いてない!囲い込みか!?」とクレームの電話を入れてきたら、元付け業者は『誤解ですよ~、今日申込みがあったんですがバタバタしていて連絡が遅れてしまったんですよ~』と言い逃れします。
売主が「じゃあ、申込み書を見せろ!」と食い下がって来ても、不動産会社は『もちろんです。FAXしますね。』と言って電話を切って、急いで偽物の申込書を作り売主に送付。
不動産会社からすれば、申込書など数分で作れてしまいます。
元付け業者は、取引状況を売主に内緒で勝手に変更し、バレても申込書を偽造すれることで簡単に囲い込みが出来てしまうのです。
4. 囲い込みにいち早く気付くためのチェックポイント
囲い込みの手口はどんどん複雑化していることがお分かり頂けたと思います。
あなたが信頼して売却をお願いしてた不動産会社だとしても、そこはビジネスだと割り切って日頃から睨みをきかせるべきです。
ここからは、日頃から行える、囲い込みにいち早く気付くためにチェックポイントをご紹介します。
4-1. ステータス管理(取引状況)をこまめにチェックする
ステータス管理の導入により、売主も自身の物件に限り、登録内容(物件情報や図面、取引状況、など)を売主専用画面で確認できるようになりました。
売主専用画面にログインするためには、レインズにしっかりと登録したことの証である「登録証明書」に書かれているIDとPASSが必要です。
登録が完了次第、不動産会社から受け取ることになります。
参考:売主専用画面と登録証明書のサンプル(指定流通機構)
https://system.reins.jp/common/sell_request.pdf
登録証明書を受け取れば、とりあえず「レインズに公開しない」といった古典的な囲い込みはしていないことになります。
ただし、登録証明書を受け取ったからと安心してはいけません。
「レインズにいったん登録してすぐに削除」したり、数日後に取引状況を「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」に勝手に変更する悪徳業者もいるので定期的にログインして確認しましょう。
また、物件情報が登録されているからと安心せず、図面もしっかりと登録されている確認しましょう。
すでにお伝えした通り、図面をあえて登録しないという囲い込み手口もあるからです。
4-2. 明らかに内覧が少ない
相場価格で売り出しているにも関わらず、月に2~3組しか内覧客が来ないような状態であれば囲い込みが行われているかも知れません。
また、あなたが売却を依頼した不動産会社しか内覧客を連れてこないようであれば囲い込みの可能性が高くなります。
レインズに登録して広く物件売り出し情報が拡散されていれば、客付け業者が内覧客を連れてくることもあるからです。
4-3. 値下げばかり提案される
「囲い込みで売却価格が下落する」でも既にお伝えした通り、囲い込みを行っている不動産会社は、売却価格をかなり値下げさせても両手仲介さえ達成すれば、片手仲介よりは儲かります。
値下げばかり提案してくるような不動産会社は高確率で囲い込みを行っています。
4-4. ポータルサイトで元付け業者しか表示されない
レインズに登録されている物件は、客付け業者が直接SUUMO(スーモ)やHOME'S(ホームズ)といったポータルサイトに広告出稿出来ます。
ただし、元付け業者がレインズ上で「広告掲載可」に設定している場合だけです。
広告掲載可に設定されていれば、当然ですが客付け業者が買主を見つけて来てしまう可能性があります。
そこで囲い込みを行う業者は、広告掲載不可に設定しているケースがほとんどです。
ポータルサイトで自身の物件を検索して、元付け業者の広告しか見当たらなければ囲い込みが行われているかも知れません。
5. 囲い込みをされていた(もしくは可能性が高い)場合の具体的な次の行動
明らかにレインズに登録させていなかったり、勝手に取引状況が変更されていり場合、ほぼ100%意図的に囲い込みが行われているので、業者変更に向けて動き出しましょう。
また、上記したチェックポイントに複数当てはまるような場合も囲い込みの可能性が高くなります。
仮に、囲い込みが行われていなくても無能な不動産会社であることに変わりありません。
放置すれば機会損失は計り知れません。
いち早く、業者変更を行うという具体的な対処が必要なのです。
業者変更の具体的な手順
一括査定サイトなどを使い複数の不動産会社にコンタクトを取ります。ただし「現状、他の不動産会社と媒介契約を結んでいるが、業者変更を考えている」ということは早めに伝えましょう。
業者を変えるにしろ後々無用なトラブルを避けるためです。
また、二度と不正業者を選ばいように慎重に選びましょう。
査定金額や、営業戦略を聞きつつ、一番信頼できそうだと感じた担当者に「いま媒介契約を結んでいる不動産会社が囲い込みを行っている(もしくは可能性が高い)と思うので、ちょっと確認して貰っても良いですか?」と、聞いてみてください。
そこで、現在の元付け業者から何らかの手口で物件紹介を拒否されるようなら囲い込み確定です。
もちろん、ここで囲い込みされていないようであれば、今の元付け業者に依頼し続けるという選択肢もあります。
しかし、囲い込みはしてないにせよ、売主に不信感を抱かせるような不動産会社は無能です。新しい不動産会社が誠実かつ有能だと感じるなら業者を変更する方が賢いでしょう。
※不動産会社との契約キャンセルについて詳しく解説しています
マンション売却をキャンセルしたい売主へ!シチュエーション別の違約金と対処法 - マンション売却カレッジ
6. まとめ
囲い込みを防ぐために、国が主導してレインズにステータス管理を導入したことは評価出来ます。
しかし、囲い込みの手口がより複雑化し、現在も蔓延しているのが実際のところです。
すでに媒介契約を結んでいるのなら、油断せずに不動産会社を監視するべきです。
また、これから媒介契約を結ぶのであれば、信頼できる不動産屋と担当者を慎重に見つけることが重要となります。