マンションを売却して利益が出れば課税されます。
しかし、多くの場合「3000万円の特別控除の特例」を利用することで、実際に支払う税額は大幅に減る、もしくは0円になります。
売主にとって嬉しい制度ですが、普通の生活で耳にすることはまずありませんよね。
「最近知ったから、詳細はよく知らない・・・」
「国税庁のホームページで調べたけどよく分らなかった・・・」
こんな方も多いのではないでしょうか?
そこで、今回は「3000万円の特別控除の特例」を徹底的にわかりやすく解説していきます。
便利な制度ですが、誰でも無制限に使えるわけではありませんし、あえて使わないことで次の新居購入で有利になることもあります。
後悔しないためにも、ぜひ最後まで読み進めてください。
1. マンションを売却した場合の税金
マンション売却で発生する所得は譲渡所得と呼ばれます。
譲渡所得がプラスなら利益(譲渡益)が発生ということになるので、税金(所得税・住民税・復興特別所得税)が課され、
マイナスなら損失が(譲渡損)が発生ということになるので、税金は課されません。
1-1. 譲渡所得の計算方法
実際の譲渡所得は以下の計算式で求めることが可能です。
・譲渡所得=①収入金額-(②取得費+③譲渡費用)
①収入金額・・・マンション売却代金
②取得費・・・「マンション購入代金+購入に掛かった経費」から、建物部分の減価償却費を差し引いた金額
②譲渡費用・・・マンション売却に掛かった経費(マンション売却のときに不動産会社へ支払う仲介手数料、印紙税など)
※減価償却費とは、マンションの建物(家屋)部分の消耗に伴う価値の減少額のことを指します。減価償却費に関しては下記のページで詳しく解説しています。
マンション売却時の取得費と減価償却費の計算方法
1-2. 譲渡所得に掛かる税率はマンションの所有期間で変わる
マンションの所有期間が5年以下(短期)か、5年超(長期)かによって、譲渡所得に掛ける税率が違ってきます。
1-2-1. 短期譲渡所得(所有期間5年以下)の税率
所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 (マンション所有期間5年以下) | 30% (30.63%) | 9% | 39% (39.63%) |
1-2-2. 長期譲渡所得(所有期間5年超)の税金
所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
長期譲渡所得 (マンション所有期間5年超) | 15% (15.315%) | 5% | 20% (20.315%) |
所有期間が長期の場合、不動産譲渡所得に掛ける譲渡所得税と住民税の税率は短期と比べて約半分です。
1-2-3. プラスして復興特別所得税
東日本大震災の復興財源を確保する目的で、所得税の2.1%が2047年まで復興特別所得税として上乗せされます。
それを踏まえたうえでの所得税率は以下のようになります。
・短期譲渡所得:所得税率30%✕2.1%=30.63%
・長期譲渡所得:所得税率15%✕2.1%=15.315%
1-2-4. 年数の数え方に注意
税金を計算する上で、マンションの所有期間の数え方は一般的な考え方とは異なるので注意が必要です。
実際の所有期間ではなく、購入した日から譲渡した年の1月1日までの間で数えます。
たとえば、2013年12月1日にマンションを購入したとします。
譲渡した日が年末年始によって所有期間は違ってきます。
- 2018年12月31日に譲渡した場合は「短期譲渡所得」
所有期間が2013年12月1日〜2018年1月1日までの4年1カ月のため - 2019年1月1日に譲渡した場合は「長期譲渡所得」
所有期間が2013年12月1日〜2019年1月1日までの5年1カ月のため
また、譲渡した日については、マンションの譲渡者が次のいずれかを選択できます。
・売買契約をした日
・マンションを引き渡した日
※減価償却の計算は、6ヶ月未満or以上で、それぞれ切り捨てor切り上げになるので混同しないように注意してください。
下記ページの「3-2. 減価償却費の計算式」で詳しく解説しています。
マンション売却時の取得費と減価償却費の計算方法
1-3. 計算例
マンションを譲渡したときの譲渡所得に対する税金をイメ-ジをするため、以下の条件でシミュレ-ションしてみます。
購入時に5000万円(土地2000万円、建物3000万円)のマンションを売却すると想定。
おおまかに計算すると、譲渡所得を求めるための数字は以下のようになる。
具体例①税金が課税されないケース
・20年後に4000万円で売却
収入金額・・・4000万円
譲渡費用・・・100万円
取得費・・・4340万円(減価償却後)
譲渡所得
=収入金額-(取得費+譲渡費用)
=4000万円-(4340万円+100万円)
=-440万円
この場合、譲渡所得がマイナスになるので、税金は課税されません。
具体例②税金が課税されるケース(短期譲渡所得)
・4年後に6000万円で売却 収入金額・・・6000万円
譲渡費用・・・100万円
取得費・・・4988万円(減価償却後)
譲渡所得
=収入金額-(取得費+譲渡費用)
=6000万円-(4988万円+100万円)
=912万円
この場合、譲渡所得がプラスで、マンション所有期間が5年以下なので短期譲渡所得となります。
①所得税:912万円✕30.63%=279万3456円(復興特別所得税を含む)
②住民税:912万円✕9%=82万800円
税金合計①+②:361万4256円
具体例③税金が課税されるケース(長期譲渡所得)
・8年後に6000万円で売却
収入金額・・・6000万円
譲渡費用・・・100万円
取得費・・・4826万円(減価償却後)
譲渡所得
=収入金額-(取得費+譲渡費用)
=6000万円-(4826万円+100万円)
=1074万円
譲渡所得がプラスで、マンション所有期間が5年超なので長期譲渡所得となります。
①所得税:1074万円✕15.315%=164万4831円(復興特別所得税を含む)
②住民税:1074万円✕5%=53万7000円
税金合計①+②:218万1831円
2. マンションを売却した場合の3000万円特別控除
マンションを売却して譲渡所得がプラス(譲渡益が発生)であれば、課税されることがお分かり頂けたと思います。
しかし、多くのマンションは売却時に「3000万円の特別控除の特例」を利用できるため、大幅に税額が減る、もしくは非課税となるケースがほとんどです。
2-1. 3000万円特別控除とは?
譲渡所得がプラス(譲渡益が発生)でも、最高で3000万円までなら差し引くことができる特例です。
計算式は以下のようになります。
譲渡所得から特別控除を差し引いた後の、実際の課税対象を課税譲渡所得と呼びます。
・課税譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-3000万円
つまり、居住用マンションを売却して利益が出ても、3000万円以下なら税金は掛かりません。
2-2. 3000万円特別控除を適用した場合の計算例
上記「マンションを譲渡した場合の税金」で用いた計算例をもとに、3000万円特別控除を適用するとどのようになるのかシミュレ-ションしてみましょう。
具体例②(短期譲渡所得)の計算例をそのまま使います。
課税譲渡所得
=①収入金額-②譲渡費用-③取得費-3000万円特別控除
=6000万円-100万円-4988万円-3000万円
=912万円-3000万円
=-2088万円
-2088万円となっていますが、控除は課税譲渡所得が0円になるまでしか適用されません。
よって正確には、控除額は912万円となります。
課税譲渡所得
=譲渡所得912万円-特別控除912万円=0円
3000万円特別控除を適用すると、譲渡所得912万円が全額免除され、課税譲渡所得は0円。
つまり、マンション売却に関わる、所得税、住民税、復興特別所得税は全て非課税となります。
もちろん、3000万円で控除できなかった課税譲渡所得に対しては、所有期間に応じた「所得税」「復興特別所得税」「住民税」が課されます。
2-3. 共有財産に3000万円特別控除を適用した場合の計算例
配偶者などがマンションの共有者の場合、譲渡益の計算方法が違ってきます。
譲渡所得を共有者の持分で按分(比率で配分)し、それぞれに3000万円特別控除を適用することが可能です。
例えば、マンションの持分を夫80と妻が20%ずつで、譲渡所得が5000万円だとすると、
夫と妻の譲渡所得はそれぞれ以下のようになります。
5000×0.8=4000万円
5000×0.2=1000万円
この場合、夫と妻の課税譲渡所得は次の通りです。
・夫:課税譲渡所得=譲渡所得4000万円-特別控除3000万円=1000万円
・妻:課税譲渡所得=譲渡所得1000万円-特別控除3000万円<0円
夫は課税譲渡所得1000万円に対して課税され、妻への課税はありません。
共有者が2人なら、特別控除の枠は最大で「3000万円✕2人=6000万円」となりますが、
あくまで、それぞれ3000万円までしか差し引くことができない点に注意してください。
譲渡所得5000万円-特別控除6000万円(2人分合算)<0円
このような使い方はできないということです。
3. 3000万円特別控除の適用要件
3000万円特別控除を受けるためには次の適用要件を満たす必要があります。
- 自分の住んでいるマンションの売却。
住民票は置いてあるが、実際は住んでいない場合は適用されません。
以前に住んでいたマンションであれば、住居しなくなった日から3年目を経過する日が属する年の12月31日までの売却。 - 「3,000万円特別控除」「特定の居住用財産の買換えの特例」「マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」
この4つの特例は3年に1回しか使えません。
つまり、売却した年の前年および前々年にどれか一つでも特例を利用している限り、「3000万円の特別控除の特例」を利用することはできません。
(今年3000万円控除を利用した納税者は、翌年と翌々年に、どれも利用することができなくなります。) - 譲渡したマンションについて、他の特別控除を受けていないこと。
例)居住用住宅を収用(国や地方公共団体などがマンションを買い取ること)した場合、最高5,000万円の特別控除が受けられます。しかし、3,000万円特別控除を同時に受けることは認められません。 - 災害によって失ったマンションは、住まなくなった日から3年目の年の12月31日に売ること。
例外として、東日本大震災により失った場合に限り、災害の日から7年目を経過する日の12月31日までの延長が認められます。 - マンションの売り手と買い手が次の特別な関係でないこと
例)直系血族(祖父母・父母・子・孫など)、配偶者、生計を共にするもしくは同居する親族、内縁関係とその親族、個人の使用人(個人秘書、お手伝いさん、執事)とその家族、同族会社
(※生計が別で同居もしていなければ、兄弟姉妹や伯父叔母などは3000万円控除が適用されます。)
4. 3000万円特別控除の適用除外
3000万円特別控除はあくまでも居住用住宅の譲渡に対する優遇税制です。
そのため、居住用住宅でないマンションの譲渡までは3,000万円特別控除は認められません。
適用除外となるのは次の3つです。
- 3000万円特別控除を受けることだけの目的でマンションに入居した場合
例)土地の価格の上昇を見込んで転売目的でマンションを購入したとします。譲渡益が出れば、税金が発生します。しかしいったん入居して、居住用住宅の体裁を整えれば、譲渡益から特別控除3,000万円を差し引いて不動産譲渡所得を計算することが可能となります。それでは税金逃れとなるため、適用除外のケ-スに挙げられています。 - 居住用住宅を新築するまでの仮住まいなど、居住用住宅でも一時的な目的で入居した場合
- 別荘など主に趣味、娯楽、保養の目的で所有するマンション
5. マンションに住んでいない所有者でも3000万円特別控除を使えるケース
「3.3000万円特別控除の適用要件」で解説した通り、3000万円特別控除は自分の住んでいるマンションを売却する場合でなければいけません。
しかし、そのマンションの所有者(=納税者)が別の場所で暮らしているケースも考えれます。
以下のような条件を満たす場合は、マンションに住んでいない所有者でも3000万円特別控除の利用が認めらます。
- マンションに他の家族が住んでいる
- やむを得ない事情がある
- その事情が解消したらマンションに戻る
典型的な例として、所有者は夫だが単身赴任中、妻と子供がマンションに住み続けているケース等があげられます。
①は妻と子供が住んでいるので問題ありません。
②の「やむを得ない事情」はケースバイケース判断が難しいところではありますが、
国税庁からの通達では、「転勤、転地療養等の事情のため」となっているので単身赴任は該当するはずです。
③に関しては戻るも何もマンションを売るのですから、戻りようがないと感じるかも知れませんが、
「結果的に売却するからそのマンションに戻ることはできないけど、仮に今すぐ、転勤先の仕事が終って戻る家はどこなのか?」
という部分で判断されます。
なので、先の例であれば、夫はマンション売却時に3000万円特別控除の利用が認められる可能性は高いでしょう。
6. 3000万円特別控除を使うことで利用できなくなる制度
3,000万円特別控除を受けることで、譲渡した年・翌年・翌々年に受けられなくなる優遇税制があります。
- 3000万円の特別控除の特例
- 特定の居住用財産の買換えの特例
- マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 住宅ロ-ン控除
特に今のマンションを売却して、次の新居の購入を考えている人は注意が必要になります。
「今のマンションで3000万円特別控除を使い、次の新居で住宅ローン控除を使おう!」
といった使い方はできないからです。
売却予定のマンションの譲渡所得が少額の場合、新居で住宅ローン控除を選択した方がお得な可能性もあるのでしっかりと比較してください。
※3000万円特別控除と、住宅ローン控除のどちらを選ぶべきかはこちらのページで詳しく解説します。
7. 3000万円特別控除と併用できる制度
1回のマンション売却に対して、基本的に重複して優遇税制を受けられません。
しかし、例外として3000万円特別控除と併用できるケ-スがあります。それが「10年超所有軽減税率の特例」です。
7-1. 10年超所有軽減税率の特例とは
所有期間が10年を超える居住用住宅の譲渡に対する優遇税制です。
譲渡所得から3000万円を控除した後の課税譲渡所得に対する税率が軽減されます。
10年超所有したマンションを売却した場合の税率は以下のようになります。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
課税譲渡所得の 6000万円以下の部分 | 10.21% | 4% | 14.21% |
課税譲渡所得の 6000万円超の部分 | 15.315% | 5% | 20.315% |
つまり、課税譲渡所得のうち6000万円以下の部分に対する所得税が10%と優遇されます。
また、6000万円を超える部分に対する所得税は長期譲渡所得と同じ15%の税率です。
※10年超所有軽減税率の特例に関しては、こちらで詳しく解説しています。
8. 3000万円特別控除を利用するためには確定申告
3000万円特別控除を利用するためには、マンションを売却した翌年の2月16日から、3月15日の間に確定申告を行う必要があります。
支払期限はそれぞれ以下の通りです。
- 所得税(復興特別所得税を含む)・・・振替納税以外だったら、確定申告の期限と同じ3月15日が支払期限。
- 住民税・・・6月に納税通知書(納付書)が郵送されます。6月8月10月1月の4回払いです。
※マンション売却時の確定申告はコチラで詳しく解説しています。
9. まとめ
この記事のポイントは4つです。
- 3000万円特別控除を使うことで、マンション売却で利益が出ても税金を大幅に減らせる、もしくは0円になる。
- 誰でも3000万円特別控除を使えるわけではない適用要件をしっかりと確認する。
- 3000万円特別控除と併用できない制度もある。特に新居で住宅ローン控除を受けようと考えている場合は注意。
- 3000万円特別控除と併用できる制度は10年超所有軽減税率の特例。
税金に関しては、しっかりと把握できていない不動産営業マンもたくさんいます。
もしも、あなたがマンションの売却を任せる不動産会社がまだ決まっていないのであれば、逆にその部分を利用してください。
「このマンションを売ったら税金はどのくらいになりますか?」
査定に訪れた営業マンに、このように質問してみます。
この問いに、すぐさま詳しく回答できる営業マンであれば豊富な知識を持った営業マンと言えるでしょう。
難しい税金の知識だからこそ、不動産会社選び・営業マン選びの判断材料に使うのです。
マンション売却は信頼できる不動産会社と、優秀な営業マンを選べさえすれば、後は言われたとおりに行動するだけで良くなります。
ぜひ参考にしてみてください。