マンションを売却すると以下の3つの税金が課税されます。
- 印紙税
- 消費税(仲介手数料支払い時)
- 譲渡所得税(所得税{復興特別所得税を含む}+住民税)
仮に売却金額5000万円のマンションであれば、印紙税は2万円、仲介手数料の消費税は124,800円です。
安くはありませんが、驚くような金額ではないかと思います。
しかし、所得税と住民税の合計である譲渡所得税はマンション次第で0円のこともあれば、数百万以上になることもあります。
その上、計算方法も複雑です。
この記事では、
・所得税と住民税の計算方法
・課税対象だった場合に所得税と住民税を安くする方法
・所得税と住民税が0円でも還付を受ける方法
まで徹底解説します。
「後で税務署が来た・・・。」「還付を受け忘れた・・・。」なんてことにならないように、完璧にマスターしてください。
1. マンション売却で支払う所得税と住民税の基本的な考え方
マンション売却において支払う「所得税」と「住民税」についての基本的な考え方を解説して行きます。
1-1. マンション売却で支払う所得税と住民税は普段の給与とは切り離して考える
一般的な給与等の所得に対しては所得税と住民税がが課税されます。
所得税の基本は総合課税と言って、所得(例えば、給与所得、事業所得、雑所得など)の合計金額に対して超過累進税率を適用する方法です。
最低は5%、最高で45%です。
住民税は一律10%になります。
一方で、マンション等の不動産売却時に発生する所得は譲渡所得と言います。
譲渡所得は、総合課税の対象となる給与所得等とは分けて、個別の税率で課税する分離課税が適用されます。
「給料とは別に、さらに課税されるのか・・・」
と不満に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、実際は真逆です。
高額な譲渡所得の発生も考えられる不動産の売却では、総合課税による超過累進税率を適用するより、
分離課税の方が支払う税金が安くなることも少なくありません。
分離課税では所得税も住民税も固定の低税率になっているからです。
例えば、年収500万円の人に、5000万円の不動産譲渡所得が発生し、合計5500万円に総合課税による超過累進税率が適用されれば45%の超高額所得税になってしまいます。
一方、分離課税であれば、年収500万円には10%、不動産譲渡所得5000万円には15%or30%の所得税が適用されます。
不動産売却の譲渡所得は、何年、何十年住んだうえでの一時的な所得であり、
給与のように毎年入ってくる所得と同じ累進課税を適用し超高額の所得税を課すのは不公平です。
そのような不公平感をなくすために、不動産の譲渡所得には分離課税が適用されています。
1-2. マンション売却で発生した譲渡所得がプラス(利益が発生)の時だけ所得税・住民税は発生する
マンション売却で発生した譲渡所得に対しては所得税も住民税も固定の低税率が適用されると解説しました。
しかし、必ずしも所得税と住民税が発生するわけではありません。
あくまでマンションを売却して利益が出た場合(譲渡所得がプラス)に、利益に対してのみ所得税・住民税が課税されます。
損失が出た場合(譲渡所得がマイナス)は、所得税も住民税も支払う必要はないのです。
1-3. 譲渡所得プラスでもマイナスでも確定申告は必要
マンションを売却して譲渡所得がプラスであれば、納税するために確定申告が必要になるのはお分かり頂けると思います。
しかし、譲渡所得がマイナスであっても確定申告は行って下さい。
確定申告を行うことで、税金の還付(払い戻し)を受けられる特例の利用が可能になるからです。
ちなみに確定申告は所得税の申告のみ行えば、住民税の申告も自動的にされます。
年末調整を受けているサラリーマンの方でも確定申告は必要なので、忘れないように注意しましょう。
1-4. 所得税と住民税の申告時期・支払時期・納付方法
マンションを売却した場合、翌年の2月16日~3月15日までに管轄する税務署に確定申告し、住民税と所得税、さらに復興特別所得税を納める必要があります。
最寄りの税務署で申告書を受け取り、必要事項を記入し、税務署に提出するのが一般的な方法です。
「e-Tax(国税電子申告納税システム)」で電子申告することも可能です。
【e-Tax】国税電子申告納税システム
http://www.e-tax.nta.go.jp/
所得税と復興特別所得税は申告時期と同じく3月15日までに、税務署か金融機関で納付します。
申告時に振替手続きすれば、4月末頃の自動引き落としとなります。
住民税は、5月に納付書が送られてくるので一括での納付も可能ですし、4期(6月8月10月1月)に分けての納付もできます。
サラリーマンの方などは、役所から会社に通知されるため、住民税は通常通り毎月の給与から天引き(特別徴収)されます。
会社に知られたくない場合は、確定申告の際に、上記した納付書での支払い(普通徴収)を選択することも可能です。
2. 所得税と住民税の税率と計算方法
譲渡所得がプラスだった場合に、プラス分にのみ所得税と住民税(譲渡所得税)か課税されることはお分かり頂けたと思います。
次に、
- 譲渡所得の計算方法
- 所得税と住民税の税率
- 計算の実例
を解説してきます。
2-1. ①譲渡所得を求める
では、譲渡所得がプラスか、マイナスかを判断するための計算方法を解説します。
譲渡所得=譲渡価格-譲渡費-取得費
- 譲渡価格・・・マンション売却額
- 譲渡費・・・マンション売却に掛かった経費
(売却時の仲介手数料、抵当権抹消費用、収入印紙代など) - 取得費・・・マンション購入額と、購入に掛かった経費
(購入代金と、購入時の仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、収入印紙代など)
※取得費に関しては、建物部分の購入金額は減価償却する必要があります。詳しくはこちら→
譲渡所得を求め、その時点で譲渡所得がマイナスなら所得税や住民税が課税されることはありません。
2-2. ②課税譲渡所得を求める
仮に、譲渡所得がプラスであれば、そこからさらに「3000万円の特別控除の特例」を使って実際の課税対象である課税譲渡所得を求めます。
課税譲渡所得=譲渡所得 -3000万円
3000万円の特別控除の特例とは、「譲渡価格-譲渡費-取得費」で譲渡所得がプラスになっていても3000万円までなら差し引くことができる特例です。
この3000万円の特別控除の特例を利用し、課税譲渡所得がマイナスになれば、所得税と住民税が課されることはありません。
3000万円の特別控除の特例利用後の課税譲渡所得の計算例
例えば、5000万円で購入したマンションを25年後に7000万円で売却したとします。
この場合、かなりざっくりした計算になりますが、以下のようになります。
- 減価償却後の取得費:3820万円(25年の間に約1180万円が減価償却されたということ)
- 譲渡費:230万円
譲渡所得=譲渡価格-譲渡費-取得費
=7000万円-230万円-3820万円
=2950万円
課税譲渡所得=譲渡所得-3000万円
=2950万円-3000万円
=-50万円
課税譲渡所得がマイナスなので所得税も住民税の支払いはありません。
5000万円のマンションの価値が140%(7000万円)になったような場合でも、3000万円の特別控除の特例を利用すれば所得税と住民税が掛かることはありません。
つまり、3000万円の特別控除の特例を利用すれば一般的なマンションの売却で所得税や住民税の心配をする必要はないのです。
2-3. ③所得税と住民税を計算
もし、3000万円の特別控除の特例を利用しても課税譲渡所得がプラスになると、所得税と住民税の支払いが必要です。
税率はマンションの所有期間で決まります。
1つ目の区切りは5年です。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
短期譲渡所得(マンション所有期間5年以下) | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得(マンション所有期間5年超) | 15.315% | 5% | 20.315 |
さらにマンションの所有期間が10年を超える場合は「10年超所有軽減税率の特例」を利用できるため、さらに税率が低くなります。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
3000万円特別控除後の6000万円以下の部分 | 10.21% | 4% | 14.21% |
3000万円特別控除後の6000万円以上の部分 | 15.315% | 5% | 20.315% |
2-4. 所得税と住民税の計算例
まず、3000万円特別控除の特例を利用しても課税譲渡所得が1000万円発生したと仮定し、
「短期譲渡所得」「長期譲渡所得」それぞれの所得税と住民税の計算例を確認します。
その後、3000万円特別控除後の課税譲渡所得が7000万円と仮定して、
「10年超所有軽減税率の特例」を利用した場合の所得税と住民税の計算例を見ていきましょう。
2-4-1. 短期譲渡所得の計算例
課税譲渡所得が1000万円で、マンション所有期間が5年以下の場合。
・譲渡所得税39.63%(内、所得税30.63%、住民税 9%)
所得税 | 住民税 | 合計 | |
短期譲渡所得(マンション所有期間5年以下) | 306.3万円 | 90万円 | 396.3万円 |
2-4-2. 長期譲渡所得の計算例
課税譲渡所得が1000万円で、マンション所有期間が5年超の場合。
・譲渡所得税20.315%(内、所得税15.315%、住民税 5%)
所得税 | 住民税 | 合計 | |
長期譲渡所得(マンション所有期間5年超) | 153.15万円 | 50万円 | 203.15万円 |
2-4-3. 10年超所有軽減税率の特例を利用した場合の計算例
課税譲渡所得が7000万円で、マンション所有期間が10年超の場合。
課税譲渡所得が6000万円未満の部分は、譲渡所得税14.21%(内、所得税10.21%、住民税4%)、
課税譲渡所得が6000万円以上の「部分」については長期譲渡所得と同様に、譲渡所得税20.315%(内、所得税15.315%、住民税 5%)」として計算できます。
課税譲渡所得が7000万円であった場合は、6000万円までと、オーバーした1000万円で分けて計算を行います。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
3000万円特別控除後の6000万円以下の部分 | 612.6万円 | 240万円 | (852.6万円) |
3000万円特別控除後の6000万円以上の部分 | 153.15万円 | 50万円 | (203.15万円)1055.75万円 |
2-4-4. 計算例まとめ
計算例は分かりやすくするために、課税譲渡所得が1000万円や7000万円としました。
しかし、実際には3000万円特別控除の特例を利用すれば課税譲渡所得が発生すること自体が稀です。
繰り返しになりますが、一般的なマンションの売却であれば、所得税や住民税の心配をする必要はないでしょう。
3. 譲渡所得がプラスの時に使いたい特例
3000万円特別控除前の譲渡所得がプラス(譲渡益が発生)の場合、すでにいくつかはご紹介しましたが所得税と住民税を減らす特例があります。
3-1. 3000万円特別控除の特例
先ほどすでにご説明していますが、3000万円特別控除の特例とは、
自宅の売却において所有期間の制限なく、譲渡所得を3000万円まで控除できるというものです。
3-2. 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
こちらも先ほど紹介しましたが、10年を超えて所有していたマンションを売却する際、
譲渡所得が6000万円以下の部分は譲渡所得税が14.21%と、通常よりも優遇されます。
この制度は、3000万円特別控除の特例と併用することが可能です。
3-3. 特定の居住用財産の買い換え特例
「特定の居住用財産の買い換え特例」は、『所有及び居住期間が10年超』かつ『譲渡価格が1億円未満』のマンション等の自宅を売却し、新たな新居を購入する場合に、居住していたマンションの譲渡所得を将来に繰り延べ(先延ばし)にできる制度です。
あくまで繰り延べしているだけで、将来的に新居を売却するタイミングで課税されます。
また『3000万円特別控除の特例』と『10年超居住用財産譲渡の特例』、そして『住宅ローン減税』との併用ができないため、利用することはまずありません。
4. 譲渡所得がマイナスの時に使いたい特例
一方、3000万円特別控除前の譲渡所得がマイナス(譲渡損失が発生)となった場合でも確定申告を行うことをお勧めします。
その理由は、確定申告し以下の特例を使うことで、他の所得の税金を安くできるからです。
(※確定申告を行うことで特例の利用が可能になるので注意してください。)
4-1. 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」は、『所有期間が5年超』のマンション等の自宅を売却し、新たな新居を『10年以上の住宅ローン』を組んで購入する場合に、居住していたマンションの譲渡損失分を他の給与等の所得と相殺できる制度です。
相殺された分、他の給与等の所得が低くなるため、比例して所得税と住民税が安くなります。
翌年以降3年間、繰り越し控除が可能になるので、最大で、4年間、所得税と住民税が0円になる可能性があります。
4-2. 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除
「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」は、買い替えを行っていなくても譲渡損失分を他の給与等の所得と相殺できる制度です。
適用条件も『所有期間が5年超』という部分は同じですが、新居を10年以上の住宅ローンを組んで購入するという部分が『売却した自宅に住宅ローンが10年以上残っている』に変わります。
5. まとめ
マンション売却時の所得税と住民税について解説してきました。
基本的には、所得税や住民税を課税されることはないことがお分かり頂けたと思います。
ただ、マンションを売却して損失が出た場合にも、翌年以降の所得税や住民税が安くなるので確定申告はかならず行いましょう。
もし、あなたが売却を依頼する不動産会社を決めていないのであれば、担当営業マンが税制に詳しいか、というのも一つの判断基準にしてください。
いくら高く売ってくれても、売りっぱなしでは本当に優秀な営業マンではありません。
「税金はこのくらいになります。」
「税金がこのくらい安くなります。」
といったことは売却後の家計に直結するからです。
売りっぱなしではなく、売主の先の生活の見通しまでフォローしてくれる優秀な営業マンを見つけてください。