自分の子供や孫に、マンション等の不動産をタダ、もしくは破格の値段で売ってあげたいと考える所有者さんは少なくありません。
しかし、このような不動産取引は贈与にあたり、超高額な贈与税が発生します。
良かれと思って譲ったのに、逆に相手を金銭的に追い込む可能性があるということです。
とはいえ、あくまでもケースバイケース。
条件によっては、特例や制度を利用し贈与税を大幅に減らすことも可能だからです。
まずは、この記事で贈与税に関する正しい知識を身に付け、その上で贈与がベストな選択なのか判断してください。
※この記事は相続税や贈与税を得意とする税理士の岡田和己様に監修頂きました。
・岡田税理士事務所
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1. 贈与税とは?
贈与税とは 相続等の場合を除き、個人から不動産などの財産を貰ったときに、貰った側の個人が支払うことになる税金です。
財産をあげた個人を贈与者(ぞうよしゃ)、財産を貰った個人を受贈者(じゅぞうしゃ)と呼びます。
ちなみに、贈与とは「無償(タダ)であげるね」「無償(タダ)で貰うね」の双方合意の契約であると民法で定められています。
そのせいなのか、「贈与税か課されるのは無償で財産を貰った時」というイメージを持たれている方が多いようです。
もちろん、無償で財産を貰えば贈与税の支払いが必要ですが、対価を支払っても贈与税が課され場合もあります。
この章で詳しく解説していくので、完璧にマスターしてください。
参考:贈与税 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm
参考:民法第549条 (総務省e-Gov)
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089_20180401_429AC0000000044&openerCode=1#2012
1-1. 贈与税か課されるのは個人間の取引のみ
贈与税が課されるは個人から個人に贈与があった場合のみです。
贈与自体は個人間以外でも十分に起こり得ます。
個人間以外の贈与に関しては、贈与税ではなく他の税金が課されます。
例えば、以下のようなケースです。
①法人→法人
②個人→法人
③法人→個人
①、②は財産を貰い受けた法人に法人税が、③は財産を貰い受けた個人に所得税がそれぞれ課されます。
この記事では、個人間の贈与に関して詳しく解説していきます。
※法人が絡んだ贈与に関しては顧問税理士さんにご相談ください。
1-2. 親族間以外でも贈与税は発生
血縁関係のない他人への贈与であっても贈与税は課されます。
実際の判例でも、贈与税の適用は親族関係であるかどうかは関係ないとされています。
参考:贈与税決定処分等取消請求事件
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=14939
1-3. 贈与税は相続税より高い
贈与税は、相続税よりかなり高い税率となっています。
というのも、相続税逃れの生前贈与を防ぐことを目的として、補助的に作られたからものが贈与税だからです。
相続人は、被相続人(亡くなった人)から財産を相続すれば相続税が発生します。
この時、贈与税がなく、相続税しかなければ、被相続人が生きている間に、相続人にすべての財産をあげることで、完全に相続税から逃れることが可能になってしまいます。
これでは相続税を作った意味がありません。
相続税の本来の目的を果たすため、補助的な役割で贈与税が定められているのです。
実際、贈与税法という法律はなく、贈与税は相続税法の中で定められています。
子供が相続税を払わなくてもいいように、生きている間に財産を全てあけよう、と考える方もいるかも知れません。
しかし、相続税対策どころか、より高額な贈与税を子供に払わせるはめになってしまうので注意が必要です。
1-4. みなし贈与にも贈与税が課される
高額な贈与税の存在を知ると、多くの方は相続税逃れの生前贈与は諦めます。
ところが、悪知恵の働く賢い人はこのように考えます。
「タダであげたら贈与になるんでしょ?じゃあ、タダじゃなければいいんだよね?
じゃあ、1円でも払えばタダじゃないんだから贈与にはならないし、贈与税も課されないのか!」
たしかに、民法上の贈与は無償譲渡です。
しかし、税法においては、本来の贈与だけではなく「みなし贈与」にも贈与税が課されます。
みなし贈与とは、無償ではないものの実質的に相手に利益を与える行為です。
不動産売買でみなし贈与とされるのが、時価相場(実勢価格)より著しく低い金額で売却した場合です。
みなし贈与の例
時価5,000万円のマンションを子供に500万円で売却したとします。
破格とはいえ、子供は父に500万円払っているので民法における贈与にはなりません。
しかし、無償でなくとも、差額の4,500万円の部分は、父が子供に贈与したとみなされるのです。(みなし贈与)
みなし贈与と判断された4500万円には贈与税が課されます。
贈与税を回避するために、形式上売買があったように見せかけても、みなし贈与と判断されるため意味がないということです。
著しく低い金額がどの程度なのかは後ほど詳しく説明します。
ちなみに、利害関係のない第三者同士のマンション売買において、常識的な範囲の値引きによる時価との差額が「みなし贈与」と判断され、贈与税を課されるようなことはまずないでしょう。
2. 贈与税の計算方法
ここまでで、以下のことがお分かり頂けたと思います。
「相続税を回避するために生きているうちにマンションをあげよう!」と考えたとろで贈与税が発生します。
「じゃあ、贈与税を回避するために破格の金額でみせかけの売却をしよう!」と考えてもみなし贈与として贈与税が発生します。
どちらにしろ、受贈者は超高額な贈与税を支払わなければいけないのです。
贈与税がいかに高税率かも確認してきましょう。
2-1. 贈与税の計算は暦年課税
贈与税は暦年課税での計算が基本です。
暦年課税は、1月1日~12月31日までの1年間に受けた財産合計をもとに贈与税を計算する方法です。
暦年課税を使った贈与税の計算は以下になります。
・贈与税の計算方法
(贈与財産価額-基礎控除110万円)×税率-控除額
暦年課税は、1年間で受けた財産の合計から基礎控除額の110万円を控除できます。
※マンションを毎年110万円ずつ贈与することは物理的に難しいですが、現金であれば毎年110万円以内の贈与は非課税となります。
この記事では生前贈与すると高税率の贈与税が課されるから相続税対策にならないと解説していますが、それは不動産のように小分けに出来ない財産の贈与に限った話です。
所有財産が不動産ではなく、現金であれば、毎年110万円以内を贈与していくのは有効な相続税対策です。
2-2. 贈与税の税率と控除額
次に実際の税率と控除額を確認しましょう。
贈与税の税率と控除は「特例税率」と「一般税率」の2つに分かれます。
2-2-1. 特例税率
特例税率は、直系尊属(父母、祖父母)から、贈与があった年に1月1日現在で20歳以上の子や孫へ贈与が行われたときの贈与税計算で使います。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1000万円以下 | 30% | 90万円 |
1500万円以下 | 40% | 190万円 |
3000万円以下 | 45% | 265万円 |
4500万円以下 | 50% | 415万円 |
4500万円超 | 55% | 640万円 |
特例税率の例
父から子へ財産を1,000万円贈与した場合。
(1,000万円-110万円)×30%-90万円=177万円
2-2-2. 一般税率
一般税率は、特例税率に当てはまらない場合の贈与税の計算に使います。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1000万円以下 | 40% | 125万円 |
1500万円以下 | 45% | 175万円 |
3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
一般税率の例
兄から弟へ財産を1,000万円贈与した場合。
(1,000万円-110万円)×40%-125万円=231万円
参考:贈与税の計算と税率 国税庁
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4408.htm
2-2-3. 相続税との比較
参考までに相続税と比較して、贈与税がいかに高いか確認してみましょう。
・贈与税の計算方法
(贈与財産価額-基礎控除110万円)×税率-控除額
・相続税の計算方法
課税価格の合計額 - 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)
※相続税のさらに詳しい計算方法は別ページで解説します。
2つの計算方法を比較すると、段違いに贈与税の基礎控除額が小さいことが分ります。
次に、相続税の税率を以下で確認してみましょう。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
税率も、例えば同じ1000万円以下という条件で比較すると、贈与税が税率30%で、相続税は税率10%です。
相続税に比べ、贈与税の税率はとにかく高く設定されています。
参考:相続税の計算 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
参考:相続税の税率 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
マンション等の不動産を、相続せず、生きている間に贈与するメリットは基本的にないのです。
このように、マンション等の不動産を、相続でなく贈与で渡す場合は、税金の負担が大きくなりやすいため、贈与を行うメリットが本当にあるかどうか慎重に検討しましょう。
2-3. 贈与財産価額の求め方
贈与財産が現金であれば、〇〇〇〇万円といった具体的な数字が分ります。
しかし、マンションなどの不動産は明確な金額が決まっていません。
そこで、贈与財産がいくらかを評価しなければいけません。
評価方法は、相続税評価額の算定方法と同じです。
例えば、マンションの場合は、土地部分と建物部分があるので、それぞれ分けて評価します。
2-3-1. 土地の贈与財産評価額の求め方
マンションの土地部分は路線価を基準に評価額を求めます。
路線価とは、国税庁によって決められた道路の1㎡あたりの相続税評価額です。
路線価は国税庁のHPで簡単に調べることができます。
参考:路線価図 国税庁
http://www.rosenka.nta.go.jp/
その道路に接する土地の面積(㎡)に、路線価を掛け合わせ、土地の贈与財産評価額を求めます。
・土地の贈与財産評価額の計算方法
路線価×土地の広さ(㎡)
例)路線価30万円で、マンション敷地面積1000㎡で土地持分が1/30なら以下のようになります。
30万円×1000㎡×1/30=1000万円
マンション土地部分の贈与財産評価額は1000万円となります。
2-3-2. 建物の贈与財産評価額の求め方
マンションの建物部分は固定資産税評価額をそのまま使用します。
毎年春先に市区町村からマンションに係る固定資産税の納税通知書が届いています。
固定資産税評価額は、この通知書に「評価額」などの表現で記載されていますので、簡単に確認できます。
紛失してしまっていたら各役所の担当課に連絡しましょう。
・建物の贈与財産評価額の計算方法
建物の贈与財産評価額=固定資産税評価額
2-4. 実際に贈与税を求める
例として、以下の条件で実際に贈与税を計算しています。
・財産の時価5000万円
・贈与財産価額(相続税評価額)3500万円(土地1000万円、建物2500万円)
2-4-1. 贈与税(特例税率)
・親から子へ贈与
(贈与財産価額-基礎控除110万円)×税率-控除額
(3500万円-基礎控除110万円)×45%-265万円
=3390万円×0.5-415万円
=1280万円
子供は1280万円の贈与税を支払う必要があります。
2-4-2. 贈与税(一般税率)
・夫から妻へ贈与
(贈与財産価額-基礎控除110万円)×税率-控除額
(3500万円-基礎控除110万円)×55%-400万円
=3390万円×0.55-400万円
=1464.5万円
妻は1464.5万円の贈与税を支払う必要があります。
2-4-3. 相続
親から子へ相続(親は配偶者なし、子は兄弟なし)
課税価格の合計額-基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
3500万円-(3,000万円+600万円×1人)
=3500万円-3600万円
=-100万円
子供に相続税の支払いはありません。
いかに贈与税が高額なのか、お分かり頂けたと思います。
3. マンションの贈与税が非課税になるケース
条件によっては、制度や特例を使い贈与税を非課税にするこも出来ます。
3-1. 相続時精算課税制度
贈与税の課税制度は、ここまで説明してきた「暦年課税」の他に、「相続時精算課税制度」があります。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の祖父母、父母から、20歳以上の孫、子への生前贈与が2500万円まであれば、贈与税が非課税になるというのものです。
2500万円を超えた部分に対しても一律20%の贈与税で済みます。
一見するととても使い勝手の良さそうな制度ですよね?
しかしながら、相続時精算という名称の通り、贈与者が亡くなり相続が発生した時点で、相続時精算課税制度を使って生前贈与していた財産にも、相続税が課されます。
例)1億円の財産を持っている父が相続時精算課税制度を使い子供に2500万円を生前贈与します。
この時点で子供に贈与税は発生しません。
10年後に父が亡くなり、残りの7500万円を子供が相続しました。
この時に生前贈与していた2500万円を合算した1億円に対して相続税が発生してしまうのです。
つまり、相続時精算課税制度は節税ではなく、先送りにしかなりません。
さらにデメリットとして、相続時精算課税制度は、一度使うと、自動的に継続されます。取り消しは出来ません。
暦年課税は年間110万円の非課税枠がありましたが、相続時精算課税制度を使うとこの110万円の非課税枠は二度と使えなくなります。
あえて相続時精算課税制度のメリットをあげれるとすれば相続争いの防止です。
マンションなどの不動産は物理的に分けられないため、相続争いに発展することが多々あります。
現金化して分けるため仕方なく売却に追い込まれるケースも少なくありません。
しかし、生きている間に、マンションを誰に譲るか決め、実際に相続時精算課税制度を使って贈与しておけば、将来の相続争いを防ぐことが出来ます。
他にも不動産投資家の方などにはメリットがある場合もありますが、相続時精算課税を使うときはより慎重にメリット・デメリットを検討しましょう。
※プロからワンポイントアドバイス
もちろん、特別受益及び遺留分侵害の問題があるため、厳密には、相続争いを防ぎきれないことがあります。しかし、相続争いを防ぐ方法として精算課税を使う場合、他の相続人にも詳しく説明、同意を取り付けてしたうえで精算課税贈与を実行する、という方法が有効です。特別受益等の法的な権利が消えるわけではありませんが、心情的な効果はあります。
参考:相続時精算課税 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
3-2. 贈与税の配偶者控除
2-4. 実際に贈与税を求めるの「贈与税(特別税率)」でもお伝えした通り、夫婦関係であっても高額な贈与税を支払わなければなりません。
しかし、婚姻期間が20年以上の夫婦で、すでに住んでいる、または住むための不動産の贈与、もしくは住むための不動産を取得するためのお金の贈与であれば、基礎控除の110万円に加え、2000万円まで控除できる特例があります。
「贈与②一般税率」では1800万円以上の贈与税が妻に課されました。
しかし、この配偶者控除を使うと以下の通り、約450万円になります。
(贈与財産価額-基礎控除110万円-配偶者控除2000万円)×税率-控除額
(3500万円-基礎控除110万円-配偶者控除2000万円)×45%-175万円
=1390×0.45-175万円
=450.5万円
20年以上連れ添った夫婦間でマンションなどの不動産贈与を行うのであれば、ぜひ使いたい特例です。
最寄りの税務署に必要書類などを確認してみましょう。
参考:夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm
3-3. 離婚
正式な離婚後に、財産分与として相手から財産を譲り受けても贈与税が発生することはありません。
実際に国税庁の見解でも、「離婚による財産分与で取得した財産は、贈与には当たらない」としています。
そもそも財産分与は贈与ではないのですから、贈与税も課されません。
参考:離婚して財産をもらったとき 国税庁
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4414.htm
4. 時価相場と売買価格にどのくらい差があると贈与税が課されるのか?
すでに述べたとおり、時価相場(実勢価格)より著しく低い金額で売却された場合も贈与とみなされます。
しかし、不動産の時価相場は正解がありません。
大局的な相場観はあるにせよ、売主と買主の状況に大きく左右されるからです。
では、著しく低い金額と判断される基準はどこなのでしょうか?
一般的な答えとして、すでに説明した相続税評価額より安い金額で売買を行うと著しく低い金額と判断され可能性があります。
マンションの相続税評価額は、土地を路線価(時価の80%)、建物を固定資産税評価額(時価の70%)で求めます。
つまり、具体的な数字でいうと時価の70~80%であれば著しく低い金額と判断される可能性は低く、贈与税は課されないでしょう。
実際の判例でも、相続税評価額程度の売買価格であれば、著しく低いとは言えないと結論付けています。
もちろん過去の判例ですから100%の保証は出来ませんが・・・。
参考:判例解説
https://ameblo.jp/hop-milkyway/entry-11349795808.html
※税理士さんのブログです。とても分りやすので興味があればぜひ。
ちなみに時価の50%以下ならほぼ確実に著しく低い金額と判断され、贈与税が課されるはずです。
50~70%はグレーゾーンとなり個々の事案ごとに判断することになるでしょう。
5. まとめ
相続税を逃れるために贈与を考えたところで、さらに高額な贈与税が課されます。
それではと、贈与税回避のため、時価より大幅に安い金額でみせかけの売買を行っても、みなし贈与と判断されてしまいます。
つまり、「特定の誰かにこのマンションは必ず譲りたい!」等の特別な事情がない限り、贈与を行ったところでムダに高い贈与税が課されるだけです。
マンションの贈与を考えていた相手が子供や孫であれば、通常の相続を行えば圧倒的に安い税金で済みます。
この記事で学んだことを踏まえて、もう一度シミュレーションを行ってみてください。